海洋細菌で見つけた新しい光エネルギー利用機構 -塩化物イオンを輸送するポンプの発見- (PNAS, 2014年3月)

Posted On 26 3月 2014
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地球上のあらゆる生物はごく一部の例外を除けば太陽光のエネルギーに依存しています。しかしながら、太陽光をエネルギー源として利用する生物の全貌は実は良く分かっていません。近年、光が当たると細胞内から水素イオン(H+)を排出する光受容タンパク質(プロテオロドプシン)が海洋微生物から見つかり、クロロフィルを利用する光合成とは異なる光エネルギー利用機構として非常に注目されています。

これまで太陽の光エネルギーを利用している海洋生物は、クロロフィルを持つ光合成生物(植物プランクトンや植物)との考えが常識でした。しかし、10年ほど前にプロテオロドプシン(PR)と呼ばれるロドプシンの仲間で、光が当たると細胞内から水素イオン(H)を排出するポンプが発見され、クロロフィルを利用する光合成生物以外の海洋生物でも光エネルギーを利用していることが明らかになりました。生物共通のエネルギー物質であるATPは、細胞の内外におけるイオンの濃度差を利用して合成されているため、ロドプシンはエネルギー合成の観点から重要です。またロドプシンによる光エネルギーの利用方法は非常にシンプルであるため、これまでにプロテオロドプシン以外のロドプシンが存在することが予想されていましたが、そのすべては明らかではありませんでした。

今回の研究で新たに分かったこと
海洋性フラボバクテリアNonlabens marinus S1-08Tから塩化物イオンを細胞内に運び入れるロドプシンを発見し、ClR(Cl pumping Rhodopsin、Clを運ぶロドプシン)と命名しました。また、ゲノム解析からこの海洋細菌はClRの他に水素イオンやナトリウムイオンを細胞の外に運ぶロドプシンを持つことも明らかにしました。つまり、この海洋細菌は海水を構成する主要イオンである水素イオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンの三つのイオンを、光を用いて運搬できます。 また、ナトリウムを排出するロドプシンも我々のグループが海洋性フラボバクテリアKrokinobacter eikastus NBRC 100814Tから発見し、NaRと命名しました(Inoue et al. Nature Commun. 2013)。

今回の研究の意義
海洋細菌から水素イオン、ナトリウムイオン、塩化物イオンを、光を用いて輸送するロドプシンが発見されたことにより、海洋細菌の光エネルギー利用機構はこれまで考えられていた以上に多様であることが分かりました。今後は、海洋細菌がこれらの3種類のロドプシンをどのように操って生命活動を続けているのか、こうしたロドプシンはどの程度海洋細菌に広く見られるものなのか、ロドプシンはどの程度の光エネルギーを受け取っているのかなどを明らかにすることで、海洋細菌の光エネルギー利用機構に関する理解が深まるものと期待されます。
雑誌名:米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)
論文タイトル:Functional characterization of flavobacteria rhodopsins reveals a unique class of light-driven chloride pump in bacteria
著者:Susumu Yoshizawa*, Yohei Kumagai, Hana Kim, Yoshitoshi Ogura, Tetsuya Hayashi, Wataru Iwasaki, Edward F. DeLong* and Kazuhiro Kogure (*責任著者)
DOI番号:10.1073/pnas.1403051111
アブストラクトURL:http://www.pnas.org/content/early/2014/03/26 /1403051111.abstract
大気海洋研究所から出したプレスリリースはこちらになります。http://www.aori.u-tokyo.ac.jp/research/news/2014/20140408.html

201403PNAS_Yoshizawa

図1 ロドプシンを用いた光エネルギー利用のイメージ図
PRはH+を排出することでプロトン駆動力を生産し、ATPを合成する(左)。ロドプシンを3つ持つS1-08Tの光エネルギー利用機構(右)。光エネルギーを用いて輸送されたNa+やClの利用方法はまだよく分かっていない。矢印(緑色)は太陽光を示す。

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