2016年度日本微生物生態学会奨励賞・受賞の言葉(丸山史人氏)
One side gone, other side born
丸山 史人
はじめに、これまで研究を指導してくださった先生方、共同研究者の皆様、一緒に研究を進めてきた学生、そして本賞へ推薦してくださった先生、選考委員の先生方をはじめ学会関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。
本学会は、はじめて入会した学会かつ、大学4年生のときに初めて発表した学会です。それ以来15年間以上本学会に所属しています。私は現在、京都大学 大学院医学研究科に所属していますが、この間、教養、薬学、農学、理学、歯学、医学と幅広い分野の研究科、附置研究所7箇所の異動を経験しています。しかし、研究を初めて以来、一貫して「微生物生態学」に取組んできました。所属する研究科によって、対象とする微生物は、病原細菌から有用細菌、単一種から細菌集団、と大きく変わり、対象とする環境も温泉からヒトまで多岐に渡っています。ここまで多様な対象に抵抗なく取り組むことができたのは、本学会で多様な研究を見聞きし、環境がヒトであってもそこに生息する微生物にとって「自然環境」であるという微生物生態学の姿勢を持つことができたためです。また、現在の医学病原細菌学研究においても、「悪玉」菌と決めているのは人間であり、それらの菌はあくまで自然環境に生息する細菌に過ぎないという考えで取り組んでいます。私の受賞対象研究は、まさに微生物生態学の常識の考えと手法を医学細菌学に応用した研究です。微生物生態学と医学細菌学は分野が違うと考えている方が多いのですが、それは、微生物生態学では常識の『生きているが培養できない細菌と細菌間相互作用』の存在にあると考えられます。少しずつコッホの原則の束縛から抜けだしてきているとはいえ、未だにこれら微生物生態学の常識は医科細菌学では、ほとんど考慮されていません。
本学会で、多様な環境の多様な微生物の生態に関する知識を学び、多くの学問分野、所属先を実際に経験することは楽しく喜びが多いのですが、良くないこともあります。つまり、新しいことを発見し、成果をまとめることには時間が必要だということです。また、世間的には異分野を経験することを推進されていますが、実際にそうすると何を主目的に研究しているのかわからないというような見方をされることもあります。そこで必要となるのが、実験材料や環境に囚われない「哲学」を持つことだと思います。
最後に、標題についてです。最近、この言葉を目にしました。英語的に正しいかはわからなかったのですが、その背景と使い方が心にしみました。その意味は、世界のどこで何を対象としても、全てを失ってでも全身全霊で取り組みたいことに取り組み、その結果、新しい概念、世界が生まれたら本懐である、ということです。今回の受賞を糧に、このような姿勢で、今後も研究に励んでいく所存です。この学会で培った「哲学」を大切にして、研究を発展させていきたいと考えておりますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどどうぞよろしくお願いいたします。