微生物によってN2Oの発生を削減することに初めて成功!(Nature Climate Change誌2013年3月)

Posted On 14 3月 2013
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研究の背景

大気中の一酸化二窒素(N2O)は増加し続けています。このN2Oは、二酸化炭素の約300倍の温室効果を有するだけでなく、深刻な地球環境問題であるオゾン層破壊の原因物質でもあります。N2Oの主要な発生源は農業で、世界の人為的発生源の60%を占めています。このため、農耕地から発生するN2Oを削減する技術の開発が切望されています。

ダイズには、細菌の一種である根粒菌が共生し、根に根粒という共生組織を形成しています。この根粒菌は、空気中の窒素を、植物が利用できる形態に変換しています。

以前、東北大チームは、N2Oを窒素(N2)に還元する酵素(N2O還元酵素)を持つ根粒菌が大気中のN2Oを除去することを発見しました。これらの研究過程で、N2O還元酵素活性を強化することによりN2Oの発生を削減できるという着想を得ました(図1)。一方、農業環境技術研究所チームは、温室効果ガスの自動モニタリング装置を世界に先駆けて開発し、フィールドレベルでN2Oの連続精密測定を行う技術を確立してきました。

今回の研究で新たに分かったこと

我々はまず、進化加速法により、ダイズ根粒菌のN2O還元酵素活性が数倍に上昇したnos強化株を作成し、このnos強化株が実験室レベルでのN2Oの削減効果を持つことを明らかにしました。さらに、圃場という大きなレベルでの試験を行うための、根粒菌の培養法と接種法を確立しました。

実際に、nos活性を欠いた土着ダイズ根粒菌が大多数を占める黒ボク試験区でnos強化株を用いることで、収穫後のN2O発生を43%削減することに成功しました。そして圃場レベルの試験でも同様の効果が得られ、nos強化株により、収穫後のN2O発生を半減させることができたのです(図1)。

Press2013minamisawa

図1 ダイズ根圏のN2O発生機構と根粒菌によるその削減

 

今回の研究の意義

今回の研究の第一の意義は、根粒菌という微生物を使って温室効果ガスを削減できるということを世界で初めて実証したことです。そして、その実証過程にも大きな意義があると思います。我々は、細胞や遺伝子レベルで起こる現象をフィールドで評価するという学際的な研究により、それを実証したのです。

地球温暖化と関連する異常気象が頻繁に起きる昨今です。今回の研究は、科学の知恵を総動員し、その進行を食い止める科学と技術の融合した新しい科学研究の先駆けとして、国内外の研究者や市民から期待を集めています。

Nature Climate Change 3, 208–212 (2013) doi:10.1038/nclimate1734

Corresponding authors:南澤究(東北大学大学院生命科学研究科)、早津雅仁(農業環境技術研究所)

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