2.微生物ってどこにいるの?

微生物は、どこにでもいます。例えば、空気、川、湖沼、水田、畑、海、動物や植物の身体など。なかには、熱い温泉や冷たい雪の中で生活するものもいます。

 

微生物は、風にのって地球のどこまでも飛んで行きます。水の中では、自由に泳ぐことのできる微生物もいますが、多くの微生物は流れに身をゆだね、漂います。そのうちどこかにたどりついた時、その場所が、その微生物にとって適した環境ならば増殖を開始します。その結果、その環境をも変化させるのです。このように、微生物は地球のいたる所に分布を拡大する機会があります。しかし、たどりついた場所がその微生物の生きる条件に合わない場合には、そのまま死んでしまいます。

<微生物の数>

では、どのくらいの数の微生物が存在しているのでしょうか? 例えば、水田土壌1グラムにはおよそ数十億もの、河川水1ミリリットルにはおよそ数百万もの、沿岸海水1ミリリットルにはおよそ数十万もの微生物がいます。計算すると、耳かき一杯の泥には、1000万個、一滴の海水の中には、およそ1万個もの微生物が生きていることになります。

<特殊な環境の微生物>

驚くことに、100℃を超える熱水が噴き出ている深海の熱水噴出孔でも、微生物は増殖しています。こうした微生物は超好熱菌とよばれています。日本国内でも、70℃程度の温泉へ行くと、色とりどりの微生物マットを観察することができます(写真1)。微生物マットとは、微生物がマット状にかたまって増殖した状態で、原始的な光合成を行う微生物、硫化水素をエネルギー源とする微生物などの好熱菌から形成されており、顕微鏡で簡単に観察することができます(写真2)。一方、南極のように寒冷で、紫外線が強い場所でも光合成を行う雪氷藻類が知られています。南極氷河には藻類の増殖に必要な栄養分が含まれていませんが、ペンギンなどの鳥類の糞が氷河にもたらされると、雪氷藻類は活発に光合成を行い、増殖します。その結果、氷河が緑色や赤色に色づく彩雪現象が観察されます(写真3)。藻類が持つ赤色の色素は、アスタキサンチンとよばれるもので、紫外線から遺伝子を守る働きがあります。また、こうした氷雪中には0℃前後でしか増殖することができず、10℃を超えると増殖できない好冷菌が分布しています(写真4)。
このほかにも、pHが2付近の火山酸性の水中で増殖する好酸菌も知られています。それに対してpHが10付近で増殖する好アルカリ菌も知られています。また、塩田のように高い塩分を好む好塩菌、酸素が無くても生きられる嫌気性菌など、実に多様な微生物がこの地球上のさまざまな場所に分布しているのです。

かつてのビートルズの唄で「Here, There and Everywhere」がありますが、その最後のフレーズは、「どこにいようと僕がいっしょだよ ここでも そこでも どこにいても」という意味でした。「彼女が手を振るだけで私の人生が変わっていく。誰もここに何かがあることを否定できはしない」というフレーズもあります。
どこにでもいる微生物、そして、生態系(次のページ参照)で必須な微生物。そんな視点で微生物を捉えてみると、微生物も愛着深い生き物に見えてきませんか?

 

【福井 学(ふくい まなぶ): 北海道大学 低温科学研究所】

※この記事は、絵本『いいことおしえてあげる ~びせいぶつのひみつ~』(リバネス出版)に掲載の解説記事を、一部改変して転載しています。文章・画像の無断使用はご遠慮ください。