3.微生物は地球のそうじやさん

地球のさまざまな場所で、微生物はゴミを分解し、他の生物が生きていくのに必要な環境を整えてくれています。

地球には、さまざまな生物が生きています。すべての生物の命はいつかは絶えるのですが、地球上に生物の死骸が残らないのはなぜでしょう。

 

<食物連鎖と微生物>

地球上の生物は、お互いに関係しあって生きています。すべての生物が微妙なバランスを保って生きることにより、この美しい地球が形づくられているのです。このように、生物と、生物を取り巻く環境がお互いに関係しあっているシステムを、「生態系」とよびます。微生物も、生態系の中でさまざまな役割を担っています。その大事な役割の一つは「分
解者」として“ゴミ”を処理することです。
地球では、植物が光合成でつくった栄養を動物が食べるという関係があります(食物連鎖。植物から動物への食物連鎖は、捕食連鎖とよびます)。動物は、栄養を食べると糞をします。また、植物も動物も寿命がくると死んでしまいます。もし、それらがそのままみんな地球上に残ったら、地球は糞や死骸で埋めつくされてしまうことでしょう。しかし、現実の地球上では、糞も死骸もいつのまにかなくなってしまいます。これは、微生物が“ゴミ”を分解して、最終的に二酸化炭素と水に変えているからなのです。このように、地球がゴミだらけになるのを防いでいるのが微生物なのです。
大きな生き物にとって糞や死骸(図1 では、「遺体有機物」)は、それ自体価値の無い“ゴミ”のようなものですが、微生物にとっては栄養豊富な食べ物です。とくに細菌はそうした“ゴミ”を食べてどんどん増えていき、その周りにいる他の微生物たち(“鞭毛虫”や“繊毛虫”などの原生動物)は細菌を餌にしています。このような微生物どうしの食物連鎖を「腐食連鎖」とよびます。「腐食連鎖」が活発になると、植物や動物の糞や死骸に含まれていたさまざまな栄養分が土や水の中に早くもどります。とくに窒素やリンは、植物が成長するときに不足しがちな栄養分なので、分解者である微生物の働きは植物の成長にとってとても重要です。地球上では、植物から動物へ向かう「捕食連鎖」と、 糞や死骸などの“ゴミ”から細菌や原生動物へと向かう「腐食連鎖」が、栄養分のリサイクルによってつながり、お互いに回り続けているのです。

<生活に活かされる微生物の力>

このような分解者としての微生物の力は、廃水処理に使われています。生活廃水や、農業や工業などの廃水の浄化には、活性汚泥法とよばれる廃水処理システムが用いられます。活性汚泥は、細菌、カビ、藻類、原生動物などの微生物の集合体です。廃水中の物質は、活性汚泥中の微生物が分解することによって除かれます。活性汚泥法は、微生物の力を使って物質を無毒化したり減らしたりする地球にやさしい方法です。しかし、そのような処理システムでも微生物の能力を超えれば、立ち行かなくなります。どんなに分解されやすい物質でも、一度に多量に与えられると微生物は分解しきれません。そのような例が、川や海の底にみられるヘドロ化です。
また、微生物にも分解できない“ゴミ”があります。それは微生物にとって有毒な物質です。また、もともと地球上にはなかった物質、例えば人間によって作られたプラスチック製品などは、微生物による分解がむずかしい物質です。
微生物を私たちの生活に役立てるには、生態系の中で微生物がどのような役割を担っているのかをよく理解し、微生物の能力を引き出すための調査や研究を進めることがとても大切です。

 

【和田 実(わだ みのる): 長崎大学大学院 生産科学研究科】

※この記事は、絵本『いいことおしえてあげる ~びせいぶつのひみつ~』(リバネス出版)に掲載の解説記事を、一部改変して転載しています。文章・画像の無断使用はご遠慮ください。