5.ヒトと微生物 ~病気と健康と微生物~

健康な人のからだにもたくさんの微生物が存在しています。有害なものはほんのひとにぎり。多くの微生物は、私たちの健康にも役立っています。

「微生物」と聞いてみなさんがイメージするものは何でしょう。病気や食中毒?もしかして「微生物」に対してなんだか恐ろしくて気持ちの悪い生きものというイメージをもってはいませんか。確かに微生物の中には私たちにとって良くない相手も存在します。でも、それは、地球上に存在する微生物のなかのほんのひとにぎりなのです。

 

<からだの中の微生物>

私たちの皮膚の表面、口やおなかの中にも常にたくさんの微生物が存在しています。これらの微生物(常在菌とよばれることもあります)は有害な微生物が私たちの体に入ってきたり体の中で増えたりするのを防ぎ、私たちの健康を守るのに役立っています。ひとりのヒトの腸内には100 兆個以上の腸内細菌が存在し、その種類は100 種類以上といわれています。腸内細菌の数がもっとも多いのは大腸で、私たちが食べた食物の消化物1グラム中に、100 億から1,000 億の腸内細菌が存在します(図1)。これらはやがて糞便(ウンチ)となって体の外に排出されますが、糞便の約半分はこれらの腸内細菌、あるいはその死骸です。腸内細菌が腸内で作るビタミン類やタンパク質などは、ヒトの食物の消化・吸収に役立っています。

<害をおよぼす微生物>

例えば私たちにもっとも身近な病気のひとつである風邪(感冒)の8 ~ 9 割はウイルスが原因です。さまざまな種類のウイルスが風邪の症状を引き起こすことが知られています。こうした微生物が原因で起こる病気を「感染症」とよびます。昔に比べると医療はずいぶん進歩しましたが、世界的にみるとまだまだ多くの人がさまざまな感染症でなくなっているのも事実です。私たちが子供の頃にワクチン接種を受けるのは、ある種の感染症を予防するためです。
食中毒を起こす微生物にはウイルス、細菌、カビがありますが、なかでもノロウイルス、カンピロバクター、サルモネラ菌、ボツリヌス菌などが有名です。食中毒には、微生物そのものが有害な場合と、微生物が作る毒素が有害な場合とがあります。

<薬を作る微生物>

私たちが感染症にかかったとき、薬として抗生物質が用いられることがあります。抗生物質とは本来、「ある微生物によって作られ、他の微生物が増えるのを抑える物質」のことをいいます。つまり私たちは、微生物が作る物質を微生物を抑えるための薬として利用しているわけです。抗生物質を作る微生物は、土の中の細菌、特に放線菌という種類に多いのですが、そのほかの細菌やカビも抗生物質を作ることが知られています。例えばもっとも古い抗生物質として知られるペニシリンは、青カビの一種のペニシリウム属が作ります。

 

【野中 里佐(のなか りさ): 獨協医科大学 医学部】

※この記事は、絵本『いいことおしえてあげる ~びせいぶつのひみつ~』(リバネス出版)に掲載の解説記事を、一部改変して転載しています。文章・画像の無断使用はご遠慮ください。