ポスター賞受賞講演

全ポスターを対象として、審査員により全5件を選出し、10月24日 (月) 夜の懇親会にて発表します。

講演日時:10月25日(火) 13:30〜14:30

受賞演題:

  講演時間 演題番号 タイトル
第一発表者 (所属)
  13:30〜13:40 P-043 超微小バクテリアの純粋培養とそのゲノム解析
中井 亮佑 (遺伝研) 他
  13:40〜13:50 P-087 土壌細菌の多様性の標高変化に対する土壌特性と植物多様性の相対的重要性
執行 宣彦 (東大・秩父演習林) 他
  13:50〜14:00 P-132 水田土壌に優占する微生物の新機能:鉄還元菌こそが窒素循環に重要である
Iron reducing bacteria are principal drivers of nitrogen transformation in rice paddy soil

増田 曜子 (東京大・院農) 他
最優秀発表賞 14:00〜14:10 P-219 大気水素が紡ぐ共生関係:空中の水素を取り込む植物共生微生物の生態の解明
菅野 学 (産総研・生物プロセス) 他
  14:10〜14:20 P-030 抗菌材表面に形成されるバイオフィルム ―初期の性状変動―
安田 怜子 (立命大・院生命) 他
  14:20〜14:30
最優秀発表賞表彰
 

 
ポスター発表タイムテーブルへ戻る






P-043
超微小バクテリアの純粋培養とそのゲノム解析

講演者: 中井 亮佑1, 藤澤 貴智1, 中村 保一1, 西出 浩世2, 内山 郁夫2,
馬場 知哉1, 豊田 敦1, 藤山 秋佐夫1, 長沼 毅3, 仁木 宏典1
1遺伝研, 2基生研, 3広島大・生物圏

要 旨:
 生物はどこまで小さくなれるのか?微生物(特に細菌)を研究対象とする場合、その最小サイズは本質的な問題といえる。発表者らは、孔径0.2マイクロメートルの除菌フィルターを用いて、野外で採取した試料をろ過し、そのろ液から超微小バクテリアを探索している。その結果として、国内河川水のろ液から終生を極小サイズ(大腸菌の細胞体積の約40分の1)で過ごす新属細菌Aurantimicrobium minutum を単離した。本細菌のゲノムサイズは約1.6 Mbと小さく、近縁グループのそれが3〜4 Mbであることから、ゲノム縮小が生じていると思われる。事実、近縁ゲノムでは保存されている幾つかの遺伝子群がそのゲノム中には存在しない。また一方、サハラ砂漠産「砂れき」の懸濁ろ液からは、培養後の細胞サイズが10マイクロメートル以上にまで大きくなる新綱細菌Oligoflexus tunisiensis を純粋分離した。この細菌のゲノムは約7.5 Mbpと比較的大きく、ゲノム中には好気呼吸に関わる複数の末端酸化酵素や異化型硝酸呼吸(脱窒)に関連する酵素をコードする遺伝子が見いだされた。また、RND 型異物排出システムをコードする領域なども存在した。以上のように、これまで看過されてきた「ろ液」に存在する極微小生物がさまざまな代謝機能を有する可能性が示された。


ページTOPへ戻る


P-087
土壌細菌の多様性の標高変化に対する土壌特性と植物多様性の相対的重要性

講演者: 執行 宣彦1, 平尾 聡秀1, 梅木 清2
1東大・秩父演習林, 2千葉大・院園芸

要 旨:
 【目的】森林における土壌細菌群集の標高変化を理解することは、地球温暖化などの環境変動に対する有機物分解速度や物質循環の変化を予測するのに役立つ。これまでの研究から、土壌細菌群集の標高変化は温度や土壌特性に依存することが明らかにされてきた。一方、植物は落葉落枝や根滲出物を土壌に供給するため、植物と土壌微生物の多様性の間には関係があることが知られている。本研究では、土壌細菌の多様性が、土壌特性だけでなく、標高に伴う植生変化、特に樹木の種多様性と機能的多様性の変化から強く影響を受けているという仮説を立て、土壌細菌の多様性を規定する要因を明らかにすることを目的とした。 【方法】東京大学秩父演習林の天然林において、標高傾度(900 m〜1800 m)に沿った60ヶ所の調査区(30 m 四方)を設置し、植生調査と土壌採取を行った。2014年5月下旬から6月上旬に、深度ごと(0〜5 cm・5〜10 cm・10〜20 cm・20〜30 cm)に土壌を採取し、真正細菌の16S rRNA遺伝子V4領域を対象としたアンプリコンシーケンス解析、および土壌特性(pH・EC・含水率・CN比)の分析を行った。また、調査区に出現する樹木種については、各種3〜5個体の葉を採取し、機能特性として比葉面積・総フェノール・CN比を測定した。これらのデータから、土壌細菌のOTU数および調査地間のOTUの入れ替わりと、土壌特性・樹木の種多様性・樹木の機能的多様性との関係を調べるために、重回帰分析を行った。 【結果】土壌細菌のOTU数は土壌深に伴って減少し、深度0〜5 cmおよび5〜10 cmで標高と有意な負の相関を示した。また、標高と樹木の種多様性には有意な負の相関が見られた。土壌細菌のOTU数に対する重回帰分析の結果、特に5〜10 cmの深度において、葉のCN比の多様性が土壌pH・EC・樹木の種多様性より強い相関を示すことが明らかとなった。また、調査地間の土壌細菌のOTUの入れ替わりに対しても同様の解析を行った結果、深度0〜5 cmでは土壌特性の違いに比べて、樹木種の入れ替わりが強い正の相関を持っていることが明らかとなった。これらの結果から、標高に沿った樹木の種多様性と機能的多様性の変化によって、表層土壌の細菌群集が形成されていることが示唆された。さらに、深度10〜20 cmおよび20〜30 cmでも、土壌細菌のOTU数と樹木の機能的多様性に相関が見られ、樹木の機能特性が細菌群集を規定していることが示唆された。




P-132
水田土壌に優占する微生物の新機能:鉄還元菌こそが窒素循環に重要である
Iron reducing bacteria are principal drivers of nitrogen transformation in rice paddy soil

講演者: 増田 曜子1, 伊藤 英臣2, 白鳥 豊3, 磯部 一夫1, 大塚 重人1, 妹尾 啓史1
1東京大・院農, 2産総研, 3新潟農総研

要 旨:
 湛水下の水田土壌においては、酸素濃度が著しく低い嫌気的な環境が発達する。この環境下では、土壌中の異化的窒素還元反応(窒素生成型硝酸還元(脱窒)、アンモニア生成型硝酸還元(DNRA)、窒素固定)が進行し、このことが畑土壌では見られない『硝酸の低溶脱』『窒素肥沃度の維持』といった水田土壌の環境保全性の基柱であると考えられている。しかし、これらの反応を駆動する微生物群の包括的な理解は未だ達成されていない。従来、水田土壌中の異化的窒素還元反応微生物群を明らかにするためにPCRベースの手法が多く用いられてきたものの、近年の研究によりPCRベースの手法は解析対象の微生物群の多様性を著しく低く見積もってしまう可能性が指摘されている。そこで本研究では、そのようなリスクを回避することができるメタゲノム・メタトランスクリプトーム解析により、水田土壌中の異化的窒素還元反応に関わる微生物群集構造の解明を試みた。 土壌DNAおよびRNAに基づくオミクス解析により、従来のPCRベースの手法でよく検出されてきた脱窒菌や窒素固定菌のものよりも、PCRベースの手法では検出されてこなかったDeltaproteobacteria綱細菌由来の異化的窒素還元反応の酵素遺伝子が極めて高頻度に検出され、Deltaproteobacteria綱細菌が還元的窒素循環反応に最も寄与していることが示唆された。その中でも、これまで世界的に水田土壌に優占することが知られ、鉄還元反応を駆動する細菌として有名なGeobacterやAnaeromyxobacter由来の一酸化窒素還元酵素、一酸化二窒素還元酵素の各遺伝子(nor, nos)、DNRAの鍵酵素遺伝子(nrf)、窒素固定遺伝子(nif)の転写産物が高頻度に検出された。これらのことから、これまで窒素還元への関与がほとんど議論されてこなかったGeobacterやAnaeromyxobacterが、脱窒反応の一部を担って硝酸を速やかに無機化し、DNRAや窒素固定によってアンモニアを生成している可能性が高く、それらが水田土壌の硝酸溶脱の低減や窒素肥沃度の維持に大きく寄与していることが示唆された。 本研究は、水田土壌の窒素循環を駆動する微生物群集構造に関する知見を大いに刷新し、生態系におけるGeobacterやAnaeromyxobacterの新たな機能を提唱するものである。




最優秀発表賞 P-219
大気水素が紡ぐ共生関係:空中の水素を取り込む植物共生微生物の生態の解明

講演者: 菅野 学, 玉木 秀幸, 加藤 創一郎, 鎌形 洋一
産総研・生物プロセス

要 旨:
 水素は、約0.5 ppmvと微量ながら、メタンに次いで大気中に多く存在する還元性ガスである。近年になって、大気濃度レベルの希薄な水素を酸化しうる高親和性水素酸化細菌が土壌から発見され、大気圏の水素の約80%が陸圏に取り込まれる過程に主要な役割を担うと推定された。さらに、先の我々の研究で、高親和性水素酸化細菌は植物体にも広く棲息することが明らかとなった。しかし、大気水素の取り込みが微生物の植物共生に寄与するかは不明である。そこで本研究では、イネの体内より分離したStreptomyces属放線菌株が有する高親和性水素酸化酵素遺伝子の発現レポーター株および遺伝子破壊株を作製し、無菌土耕栽培したイネに接種することで、植物共生における高親和性水素酸化の生態学的意義を明らかとすることを目的とした。 発現レポーター株の接種結果より、植物表面および植物体内に局在する胞子でのみGFP蛍光が観察され、菌糸体では蛍光検出されなかった。微生物が共生した植物では水素酸化活性が確認された一方、無菌植物では水素の減少が全く見られないことから、植物に共生するStreptomyces属放線菌の胞子によって大気水素が酸化されると考えられた。 野生株はイネの生育を増大させる特性を持つが、水素を酸化する機能を欠失した遺伝子破壊株では、この生育促進効果の低減が確認された。植物の生育促進に関連する生理学的特性を野生株と破壊株で比較したところ、顕著な違いは見られず、別の要因が考えられた。そこで、植物に定着する細胞数の違いに着目したところ、接種10日後の時点で遺伝子破壊株は細胞数が顕著に少なく、接種4週間後に植物体内から完全に消失した。これより、高親和性水素酸化細菌の植物への初期定着や共生関係の維持に大気水素の取り込みが寄与すると考えられた。また、人工培地において、遺伝子破壊株の生存率の経時的な減少が観察された。これは、栄養制限下や胞子の状態で長期生存するためのエネルギーが大気水素の酸化によって獲得されるとの近年の報告を支持する結果である。 本研究は、大気水素が関与する植物と微生物の共生関係の可能性を初めて示した。微生物が主な住処とする植物表面や導管や細胞間隙は、植物根圏に比べて有機物が常に安定的に得られるとは考えにくく、従属栄養と大気水素酸化の異なる代謝様式を併せ持つことは、そのような環境での生存に有利に働くと考えられる。




P-030
抗菌材表面に形成されるバイオフィルム ―初期の性状変動―

講演者: 安田 怜子1, 大和 優作2, 土屋 雄揮2, 江田 志磨2, 森崎 久雄1,2
1立命大・院生命, 2立命大・生命

要 旨:
 抗菌とは、「細菌の増殖を抑制すること」と定義されている。この抗菌効果をもつ材料である「抗菌材」は、近年、身の回りの様々なところ(台所シンクや工場のタンク等)で使用されている。  抗菌材の効果については、これまで実験室レベル(単一菌株、短期間)の実験で評価されてきた。そのため、実際に抗菌材を使用する現場で抗菌材がどのような効果を発揮するかは明らかでなかった。我々はこれまで、様々な現場環境(屋内や屋外)で抗菌材を使用し、その効果を調べてきた。その結果、抗菌材表面にバイオフィルム(微生物の共同体)が形成されることを見出した。長期間(1〜5年間)使用した抗菌材表面には、非抗菌材表面と同程度かつ、類似した性質(菌数や細菌群集構造)のバイオフィルムが形成されていた。一方、短期間(1週間〜3ヶ月間)の使用では、抗菌材表面で菌数が抑制される傾向が見られた。ただし、1週間目の時点で、すでに、抗菌材表面に多くの菌が見られたため、より期間を短くして調べる必要が生じた。そこで、本研究では、形成ごく初期(1日〜1週間)における、バイオフィルムの性状および抗菌材の影響を明らかにすることを目的とした。  屋内(台所のシンク)および屋外(自然池)に基質(抗菌材および非抗菌材)を1週間設置した。それら基質表面を定期的(設置後1, 3, 5, 7日目)に顕微鏡で観察し、菌数、酸性ムコ多糖量を測定した。屋内では、設置後1日目から両基質表面で菌以外の付着物が確認された。ただし、付着物の量は、抗菌材表面の方が多い傾向にあった。一方、菌数は、両基質ともに設置後1日目から経時的に増加し、設置後5日目以降に著しく増加していた。その著しい増加と共に、菌が密集している部分が増え、抗菌材表面で非抗菌材表面よりも菌数が少なくなる傾向も見られるようになった。また、酸性ムコ多糖は、期間中、ほとんど検出されなかった。以上の結果から、抗菌材表面には数日のうちに菌が付着し、付着した菌が増殖するときに、その増殖を抗菌材が抑制する可能性がある。屋外では、設置後1日目から屋内よりも多くの付着物が付着している様子を確認している。発表では、屋外も含めて形成ごく初期のバイオフィルムの性状と抗菌効果について議論する。  今後は、バイオフィルム内の細菌の群集構造、活性などを調べ、バイオフィルムへの抗菌材の影響の詳細を明らかにする予定である。