PJ-186:ヒト腸内微生物叢における窒素固定活性とnifH遺伝子の多様性
1長崎大院医歯薬, 2東大院医, 3東北大院生命科学, 4東大院新領域, 5東京外語大AA研, 6千葉大文, 7赤十字秋田看大, 8理研BRC JCM , 9東工大院生命理工, 10PNG医学研
シロアリを代表とする一部の無脊椎動物の共生微生物叢における窒素固定はよく知られている。一方、脊椎動物、特にヒト腸内微生物叢においては、アンモニアをはじめとする窒素化合物が豊富にあることから、窒素固定活性の存在について否定的な見方がなされ、ほとんど研究がなされていなかった。しかしながら我々は、15N2取り込み実験とnifH遺伝子解析によりヒト腸内微生物叢が窒素固定能を持つことを発見し、今回報告する。
ヒト腸内微生物叢の窒素固定については、1960年代に、食物中の窒素含有量が極端に少ないことが知られていたパプアニューギニア高地人が注目され、彼らの糞便培養物のアセチレン還元活性を検出した先行研究が一例だけある。今回我々は、窒素摂取量がヒト標準必要量より少なかった現代のパプアニューギニア高地人と十分な窒素摂取量をもつ日本人の糞便サンプルについて、窒素固定活性の有無を検証した。これらの糞便サンプルを用いて15N2ガスの取り込み実験を行ったところ、宿主の窒素摂取量にかかわらず、日本人とパプアニューギニア高地人の全てのサンプルにおいて15Nの取り込みが確認された。一方、オートクレーブ処理した糞便サンプルでは全く検出されなかった。次に、糞便DNAおよびRNAから、窒素固定のマーカー遺伝子であるnifHを、それぞれPCR、RT-PCRで増幅して配列を取得・解析した。その結果、日本人、パプパニューギニア高地人のいずれからも、2つの系統群だけが検出された。一方はnifH Cluster Iに分類され、Klebsiella属 がもつnifH配列とほぼ同一であった。他方は、Cluster IIIに分類され、哺乳類腸内由来のClostridiales目細菌のNifHと97%以上のアミノ酸相同性を示した。これらの糞便サンプルのメタゲノム解析を行ったところ、同様の結果を確認し、さらにデータベース上のヨーロッパ人と中国人の腸内微生物叢メタゲノム配列からも上記の2系統群のnifHのみが検出された。
以上の結果から、ヒト腸内細菌群集が窒素固定能を持つ可能性が示唆された。
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