PJ-169:珪藻Chaetoceros tenuissimusに感染するDNA/RNAウイルスの感染特異性と感染を支配する要因
1佐賀大学低平地沿岸センター, 2水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所
夏期に沿岸域でブルームを形成する小型浮遊性珪藻C. tenuissimusには、種々のウイルスが感染する。これまでの現場調査から、本珪藻個体群の挙動にウイルスが何らかの影響を与えている事が予想されている。現場における両者の関係を理解するためには量的関係性の調査が必要であるが、さらに質的な関係を明らかにするためには、「珪藻株のウイルス感受性ならびにウイルスの宿主株感染特異性の多様度」、ならびに「ウイルス感染成立可否の支配要因(環境要因やゲノム変異度)」を明らかにする事が重要である。そこで、C. tenuissimusとそれに感染するウイルスにおける感染/非感染関係と、その支配要因を把握する事を目的に、以下の研究を実施した。これまでに西日本で分離したC. tenuissimus(108株)と、ウイルス(RNAウイルス83株,DNAウイルス150株)間のクロスアッセイを行い、感染・溶藻可否に基づいたウイルスの群分けを行った。感染の判定については、珪藻の葉緑体自家蛍光を測定し、コントロールより蛍光値が半分以下の試験区で感染が成立したとみなした。さらに複数のウイルスについては、ウイルスゲノムの部分配列を決定し、それに基づくDNAもしくはアミノ酸配列比較を実施した。RNAウイルスについては、大きく2群の宿主特異性を持つウイルスに分類される事がわかった。しかし、複製酵素、非翻訳領域ならびに殻タンパク質コード領域の塩基配列の違いは、感染特異性による群分けとは関係性が低いと推察された。今回の比較領域は部分配列に留まっており、RNAウイルスの感染特異性の解明には、より広範囲の塩基配列の解析が必要であると思われた。一方で、DNAウイルスは宿主特異性において複数群に分類された。またウイルス殻タンパク質のアミノ酸配列に基づいた系統樹からは、感染パターンと関係性がある事を示す結果が示された。本研究の結果、宿主−ウイルス間には多様な感染・被感染関係があることが明らかになったが、それらの差違と塩基配列の関係には未だ検討の余地が残った。今後、各ウイルス群の代表的ウイルスの全ゲノム解析を実施し、それらの比較解析からウイルスの感染特異性に関与する因子を絞り込む必要がある。それらを明らかにすることで、現場における宿主−ウイルス間のせめぎ合い・共存関係がより高解像度に理解されるものと期待される。
keywords:珪藻,ウイルス,レセプター,クロスアッセイ,感染