PF-083:深海から分離した従属栄養性微小鞭毛虫の増殖温度
1福井県大・院・海洋, 2海洋研究開発機構, 3福井県大・海洋
【目的】微生物ループでは、従属栄養性微小鞭毛虫(以下、鞭毛虫)が細菌捕食者として重要な役割を担っている。海洋の大部分を占める深海でも鞭毛虫の存在が確認されているが、技術的な制約から現存量と多様性が調べられているにすぎず、その生理・生態については殆ど不明である。そこで本研究では、培養株の生理学的特性から、深海における微生物ループを明らかにすることを最終目標とした。その一助として、深海から鞭毛虫を分離・培養し、それら鞭毛虫の増殖におよぼす水温の影響を調べた。
【方法】日本海溝、マリアナ海溝、伊豆・小笠原海溝、北西太平洋凌風海山北方における鞭毛虫の鉛直分布をプリムリン染色法により調べた。これらの海域に加えて、インド洋Solitaire熱水域からも試料を採取し、鞭毛虫の集積培養を行った。その後、キャピラリーアイソレーション法によって鞭毛虫を単離した。得られた鞭毛虫株の温度に対する増殖特性を調べるために、餌となる細菌の密度を一定にして、常圧のもと様々な水温条件 (2〜50 ℃)で培養し、経時的に細胞密度を計数して増殖速度を算出した。
【結果・考察】鞭毛虫の現存量は海域により異なるものの、表層では101~102 cells ml-1レベルで、水深と共に減少し、海溝内の超深海層でも 10-2~100 cells ml-1の鞭毛虫が存在した。 Solitaire熱水域(水深2608 m)およびマリアナ海溝の深海平原(水深4700 m)から、それぞれPercolomonas sp. HVS001株とJakoba libera MT-CTW1株の分離・培養に成功した。この2株の増殖の温度を調べたところHVS001株は10〜40 ℃で、MT-CTW1株は10〜30 ℃で増殖が認められ、至適増殖温度はそれぞれ40および30 ℃であった。増殖の見られなかった2、40または50 ℃で2週間培養したものを至適温度に移したところ、2℃の処理区のみ増殖した。深海の鞭毛虫は、現場環境の水温で細胞を維持することが可能であることが明らかとなった。しかし、深海の細菌密度や水温から考えると、深海の鞭毛虫は現場では増殖しない、もしくはほとんど増殖していないと思われる。
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