ON-18:東日本大震災後の土壌および瓦礫に生息する病原性Clostridium属細菌の分布調査
東北大学大学院農学研究科動物微生物学分野
【目的】2011年3月に東日本大震災が発生し、死者行方不明者は18,468人、津波や土砂災害による建物の半壊全壊は399,218戸に上った。偏性嫌気性桿菌であるClostridium属細菌は芽胞をつくり土壌などの環境中で長期間生存が可能であり、人獣共通感染症の起因菌となる。災害現場では、負傷者や瓦礫撤去にあたるボランティアの創傷部からの細菌侵入による感染や粉塵を介した食中毒などの事例が報告されてきた。我々はClostridium属細菌感染症の感染リスクを知るために、土壌の汚染マップの作成を考えている。本研究では宮城県沿岸部を中心にClostridium perfringensの分布調査を行い、震災との関連性を検討した。
【方法】2011年に仙台市内の被災現場15箇所から採取した土砂および瓦礫、2015年に同箇所から再度採取した土壌を試料とした。試料懸濁液を加熱処理(80℃、20分)し、各試料1gあたりの偏性嫌気性芽胞菌数を算出した。また同様に加熱処理後、37℃の嫌気条件下で一晩培養した菌液をBHI寒天培地に塗抹し、生育したコロニーを無作為に単離した。PCRに供しplc遺伝子の検出と配列解析を試みた。
【結果】2011年に採取した15箇所の土砂・瓦礫全てにおいて偏性嫌気性芽胞菌を検出し、試料1gあたりの菌数は最も高い土砂で3.5X104であった。2015年に再度計数を試みた結果、菌数は減少傾向であったが全試料から偏性嫌気性芽胞菌が検出された。津波の被害がない地点からはC. perfringensが検出されず、被害を受けた地点では沿岸部や内陸部に関わらず、土砂および特に瓦礫からC. perfringensが分離された。また、plc遺伝子配列に基づく分離株の近隣結合法による系統樹から、採取地点に特異的な系統分布は見られなかった。
【考察】偏性嫌気性細菌であるC. perfringensが2011年に採取した保存試料で再度検出されたことから、本菌は土砂・瓦礫中で芽胞をつくり長期間生存を続けていたと考えられた。また津波の被害を受けた地点でC. perfringensの存在を確認したことから、津波により土壌が攪拌されたことが一つの要因であり、災害後の感染症リスクが高まる可能性がある。
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