2016年度M&E論文賞 受賞講演

授賞論文
Burkholderia of Plant-Beneficial Group are Symbiotically Associated with Bordered Plant Bugs (Heteroptera: Pyrrhocoroidea: Largidae).
Kazutaka Takeshita, Yu Matsuura, Hideomi Itoh, Ronald Navarro, Tomoyuki Hori, Teruo Sone, Yoichi Kamagata, Peter Mergaert, Yoshitomo Kikuchi.
Microbes Environ. 2015;30(4):321-329.

講演タイトル
オオホシカメムシが解き明かすカメムシ類-Burkholderia共生系の進化
Bordered plant bugs are a key taxon for elucidating the evolution of stinkbugs-Burkholderia symbiosis

日時:10月23日(日) 11:35〜12:05
講演者: 北海道大学 / 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門
     竹下 和貴  氏

共著者:松浦 優 (北海道大学 / 現 琉球大学)
     伊藤 英臣 (産業技術総合研究所)
     Ronald Navarro (産業技術総合研究所 / 現 森林総合研究所)
     堀 知行 (産業技術総合研究所)
     曾根 輝雄 (北海道大学)
     鎌形 洋一 (産業技術総合研究所 / 北海道大学)
     Peter Mergaert (フランス国立科学研究センター CNRS / 北海道大学 / 産業技術総合研究所)
     菊池 義智 (産業技術総合研究所 / 北海道大学)


要 旨: 多くの植食性カメムシ(カメムシ下目)は消化管後部に盲嚢と呼ばれる袋状組織を発達させ、その内腔中に共生細菌を保持している。多様なカメムシ類の網羅的調査により、カメムシ下目の5つの上科のうちヘリカメムシ上科とナガカメムシ上科の種が、Betaproteobacteria綱Burkholderia属の中でも“stinkbug-associated beneficial and environmental (SBE)”グループと呼ばれる特定系統のBurkholderiaを毎世代環境中から選択的に獲得し共生させることが明らかとなってきた。このことから、カメムシ類-Burkholderia共生系の進化的起源はヘリカメムシ・ナガカメムシ上科の共通祖先にあると従来考えられてきた。しかし最近の共生細菌叢解析により、上記2つの上科と姉妹群の関係にあるホシカメムシ上科のオオホシカメムシ科もBurkholderiaと共生関係にある可能性が示唆され、カメムシ類-Burkholderia共生系の起源については明確な回答が得られていない状態となっていた。そこで本研究では、オオホシカメムシ科の3種について、FISHにより共生細菌の消化管内局在を、クローン解析および次世代シークエンシングにより共生細菌叢を、そして診断PCRにより野外集団中の成虫および卵の共生細菌感染率を調査した。その結果、ヘリカメムシ・ナガカメムシ上科の種と同様、オオホシカメムシ科もBurkholderiaを環境中から選択的に獲得し盲嚢特異的に共生させていることが判明した。その一方で、オオホシカメムシ科のBurkholderia共生細菌は、ヘリカメムシ・ナガカメムシ上科のSBEとは系統的に大きく異なり、根粒菌や植物成長促進根圏微生物を含む“plant-associated beneficial and environmental (PBE)”グループと呼ばれる系統であることが明らかとなった。これらの結果は、カメムシ類-Burkholderiaの環境獲得型共生系の進化的起源がホシカメムシ・ヘリカメムシ・ナガカメムシ上科の共通祖先にあることを示唆している一方、共生細菌の系統特異性がカメムシ類の進化過程でSBEとPBE間で大きく遷移したことを示しており、この共生系が従来考えられていたよりも複雑な進化を遂げてきたことを強く示唆している。


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