第2回日本微生物生態学会奨励賞 受賞講演

医科微生物生態学の創成に関する研究
- そして次に何を目指すのか –

日時:10月23日(日) 11:00〜11:30
講演者: 京都大学 大学院医学研究科
     丸山 史人 氏


要 旨: 微生物にとって,ヒト環境も自然環境のひとつであり,他の微生物,宿主との相互作用を通じて生息しています.ヒトではいわゆる病原細菌が着目され研究されていますが,実際にはほとんどがヒトに危害を加えない状態で生息しています.これらはヒトに疾患を引き起こしますが,これまで技術的な困難,コッホの原則に基づく医科細菌学の慣習からほとんど研究されてこなかった大きな課題が残されています.ヒトの感染症の8割は複数種の微生物が関わる複合微生物感染症によって引き起こされています.この複合感染症では原因菌が感染部位の表面にバイオフィルムを形成し,抗生物質などの治療に対して難治性化することが問題となっています.これまで,どのような細菌種で構成されることが発症,慢性化において必要なのか明らかになっている例はほとんどなく,その発症機構の解明や治療法の開発が望まれています.しかし,多数の種が疾患に関与し,原因菌種の絞込みもできていないこと,培養法が存在しない細菌種が関与することが研究を困難としてきました.
 そこで,私は自然環境微生物学では常識である“自然環境中の微生物は,培養できないのが当然である”という概念を従来の医学細菌学に持ちこみました.すなわち,これらのヒトを含む自然環境中の微生物は,培養できないことが当然であると考えました.そこで,得られた成果は,感染症の8割を占める難治性複合感染症治療法の開発に向けた基盤となるものでした.そして,他の複合感染症においても導入可能な取り組みであり,これまで研究が困難で見過ごされていた複合感染症に関する研究分野,医科微生物生態学,を開花させることができると確信しています.
 この研究過程で見えてきたことは,個々の微生物を理解するには,集団の理解が必要であり,さらには環境も合わせて理解することが必要であることです.すなわち共生体総体,ホロビオントを考慮すること,そして,その生物間相互作用は安定すること無く揺らぐものであり,協力と競争の関係が同じ生物種同士でも環境や場合によって異なる,共創関係(Amphibiosis)であること意識していくべきだと考えています.これが新しい人工生態系の構築,そして複合感染症のようなロバストな生態系の破壊に必要だといえます.この観点から,現在取り組んでいる課題,今後の方向性を紹介致します.



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